これまでの活動「子どもたちの不安を可能性へ」2005年12月6日シンポジウム

当会会長・理事長(岡山市教育委員会)、岡山市主任児童委員の対談 ※チラシ内の連絡先は、移転のため現在は使われていません。

【シンポジウムを回想して】佐々木正美先生と成石壽之先生に感謝をこめて

 佐々木正美先生との出会いは、県が主催する不登校や引きこもりの子どもを健全に向かわせる専門家ネットワークを作るための基調講演の場でした。
 子どもを守り育むことを目的にするネットワークであるのに、「親」は招かざる者でした。そして「問題は不登校や引きこもりの子どもと親にある」という前提になっていました。 終始その前提でお話をされ、終えられた後に「実態はそうではない」ということを訴えました。まるで講師と主催した県の面目丸つぶれです。事務局を担われた保健センターの先生は、後に咎めるどころか「よくやった」と言わんばかりの対応で、岡山県の「専門家たちが《問題のある不登校や引きこもりとその親》をどう対策するか」というプロジェクトはなくなったそうです。佐々木先生は、全国を縦断して、そのようなネットワークを作る自治体に頼りにされている存在でした。
 こうした経緯での佐々木先生との出会いでしたが、散会後に駆け寄ってこられて「そのようなことが起きていることを知りませんでした。私にできることがあればやらせてください。」と申し出られました。不登校・引きこもり対応の第一人者として全国を駆け巡っている大御所の方の面目を丸つぶれにしたのだから、どれほどの恨みを買っても仕方がないと覚悟を決めての反乱であったのに、包み込まれてしまいました。同行した他の人は「狸だから信用してはいけない!」と引き止めましたが、どんなに頑張っても子どもを守れず、逆に頑張れば頑張るほど奈落に落ちる蟻地獄のような状況で、一縷の希望でも飛び込んでみようと考えたのです。

 佐々木先生に「批難の目を向けられ冷遇されがちな子どもや親を守って頂きたい」とお願いし、即時にご快諾戴き、実際にずいぶん守られてきたと思います。しかし教育現場での教員の姿勢や技術力はまだまだ未熟な人が多く、子どもや親が理不尽につらい目にあっていたり、一教員では救えない非情な事態がありました。そんな中で、子どもや親を守り抜く姿勢をどんな場でも貫く校長、成石壽之先生を知りました。助けを求めたところやはり即時にご快諾くださり、立場の弱い(本当は最も尊重されるべき)子どもと親を守る双璧となってくださいました。佐々木正美会長と成石壽之理事長の態勢です。この力を弱っている子どもたち親たちと共有すべく、お二人に登場して戴くシンポジウムを企画しました。それがこの「子どもたちの不安を可能性へ」です。名付けたのは成石先生です。良いタイトルです。
 主役は飽くまで子どもであり、子育てに悩み苦しむ親たちで、子と親が「生まれてくれてありがとう❤」「産んでくれてありがとう♪」と、最上に愛し合う関係を喜び合えることが教育者や児童精神科医の役目であり喜びであることは言うまでもありません。そのために、地域でもっとも子どもと親に寄り添い支えになってくれる役目を持つ主任児童委員さんに模範となる経験を語って頂くことを主題にしました。
 登壇してくださったお二人の主任児童委員さんは、自らが家庭や地域での子育てに悩み、戸惑い、苦しんだ経験を抱え、乗り越えてきて、大きな愛で地域の全ての親子を慈しみ、心底全ての子どもたちが幸せであってほしいと願う人たちでした。
 会場を埋めた子育てに迷い、ためらい、途方に暮れていた人たちは、子どもたちの不安も、自分自身の不安も、必ずやってくる幸せへの道のりだと思える希望の光を見出したと思います。

 後に知ったことですが、佐々木先生にはひきこもりのお子さんがおられ、自己矛盾の中で葛藤しておられたのでしょう。佐々木先生を引っ張りだこにしていた教育や精神保健分野の方々は、子どもや親に問題があると言ってくれる先生を重宝していたことでしょう。しかし、岡山の地での反逆に直面し、原因は親子にあるのではないこと、親子にあったとしてもその善処ができない教育者や精神保健関係者がどこまでも慈しみの心による対応力を磨かなければならない責務があり、親や子のせいにしている場合ではないということが、佐々木先生を通して国全体の潮流になっていったことに、一石を投じることになったものと思います。

 成石先生もまた、ご自分の子育てに悩みを持っておられました。親がだめだから子どももダメになるのだといった世間の冷たい視線の構図は、こうした素晴らしいお二人の親をもってしてもわかるではありませんか。家庭教育が良ければ良いほど学校や外の世界の理不尽に敏感になり、自分の価値観を押しつぶしてまで他人に合わせられない状況となります。合わせられないことを弱さであると切り捨て、あるいは変更を迫られるのですが、合わせられないことや学校に行かないこと、引きこもることは、ある面とても強くないと実行できないものでもあります。
 どんなことがあっても、子どもを信じ、寄り添い、「あなたは悪くない」と言い続けることで見えるもの、築けるもの、失わずに済むものがあります。家庭の外を変えることは難しくても、親は最愛の子どものために変わることは必ずできます。産んだ以上ひるむことなく守り抜きましょう。いや、ひるむ瞬間はあっても仕方がないけど、すぐに持ち直しましょう。
 親が守らないで誰が守るのですか?世間が全て敵になっても親は味方でいましょう。

 もうひとつ当会が貫いて全国に影響できたことは、義務教育の「義務」は大人たちにあり、その責任は、国、自治体、教育委員会、教育者たちにあることです。「学校へ行かなくて良いではないか」「別に私塾を創ろう」といった潮流が全国的に広まろうとしていた時期に、「子どもたちには学ぶ権利がある。学べない状況、学びたくなくなる状況にしたままで、学ばなくても良いなどと言い逃れをしてはいけない。学び成長したい本能が尊重され、大切なことが学べて成長でき、社会に活かせる本来あるべき学習の機会を提供する義務を放棄してはいけない」と主張してきました。そのことが正論として受け入れられるようになりました。当然のことなのに、今もって実現できず、苦しんでいる子や親がいることは残念です。

 佐々木正美先生、成石壽之先生の知名度や信頼度のおかげで、子どもを守り抜く姿勢を貫いている当会の今が在ると心から厚く御礼申し上げます。
 お二人が寄稿された山陽新聞の記事の一文で、子どもたちへの愛と責任感が、いかに大きく強いものであったかが、改めて感じて戴けると思います。

 佐々木正美先生は、当会の永遠の名誉会長です。(2017年にご逝去されました)
 成石壽之先生は、当会の永遠の名誉理事長です。

    2022年3月吉日

特定非営利活動法人こどもとともに交流会 理事長 嶋津 和代